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 プロマラソンスイマー松崎裕子の「マラソンスイミング四方山話!」

 
 
blueseventyのサポート選手、プロマラソンスイマー松崎裕子さんによりますスイミングコラム
松崎裕子の「マラソンスイミング四方山話!」

全5回でお届けいたします!

松崎裕子の「マラソンスイミング四方山話!」

第1回

マラソンスイミングって?
第2回 マラソンスイマーは大きな肝っ玉の持ち主?!
第3回  「ドライバーはKeyマン!」
第4回  -
第5回  -
マラソンスイマー
松崎 裕子

日本を代表するマラソンスイマー。FINAの世界ランキングでも常に上位をキープ。
ワールドツアーを転戦中。アメリカ・オーランド在住。
 
 

第3回 「ドライバーはKeyマン!」
ブルーセブンティ

 <1人では泳げない・・・>

選手は1人では泳げない。
何しろコースが長い。 かなり目のいい選手でもスタート地点からゴールが見えない時が殆どである。
行き先の分からない所を闇雲に泳ぐのは怖い。
選手をゴールまで導くためにエスコートボートがつくのだが、これがなかなか一筋縄ではいかない。

選手をサポートするエスコートボートのドライバーは主催者が地元で調達する。例え選手が自分知り合いのドライバーやパドラーを母国から連れてこようとその人をレース中自分専用のドライバーにすることは出来ない。海や川などには独特の潮の流れがあるので、よその場所から来た人がいきなりボートに乗り込んでも、細かい流れ等を読み切れず失敗するだけであるからだ。このドラーバーもマラソンスイミングレース用の特別な資格がいるわけではない。ボートの免許を持ちボートを操縦できる人なら誰でもいい。もちろん昨日免許を取ったという人でもいい。

この種目はドライバーをえり好み出来るほど人気がある訳ではない。「エスコート?志願してくれるのかぁ!ありがたいなぁ~!」と誰が来てもたいていは大歓迎である。この大ざっぱなドライバー選出方法のために選手は苦労する場合が多い。これだけは断言しよう

  「ボートがダメなら選手はすんなりとゴールできない」。


  <伝説のドライバー> 

友人オウグストが笑顔でやって来た。
  「面白いネタがあるんだ。裕子に100%の笑いを保証する」

私の本が出版された後は、何か面白い事が起こったら選手は報告に来てくれる。お陰でネタ集めに苦労しない。マラソンスイミングでは1つのレースがあったら、1人1人に違ったドラマがある。それが感動巨編になる場合もあれば、不満爆発怒濤の嵐になる場合もある。

ロザリオでのレース、ブリータ選手のコーチ、オウグストが自分のボートに着くとそこには水平線を眺めている爺さん1人。前歯が殆ど抜け落ち腰も十分に曲がり、ちびまるこちゃんにでてくる友蔵じいさんに似た感じであった。

オウグストは即座に
  「ドライバーを若い人に替えてくれ」
と主催者に抗議した。若いドライバーだと、急に方向を変えることもできるので、ポイントを見逃すことが少ない。ブリータのように上位争いをする選手には絶対に欠かせない。 主催者は 「彼が舟に一緒にのるから大丈夫。心配しなくていい」
と兄ちゃんを彼のボートに乗り込ませた。
オウグストは「ドライバーが2人なら安心だ」と大船に乗った気になった。がこれは後にオウグストの大いなる勘違いと知るのであった。

レース開始後想像通りブリータは先頭集団についた。レース開始後いいコースを取るためにオウグストは
  「右に行け」
とドライバーに指示。だがピクリとも動かず無反応
  「爺さん右だ!」
やっぱり知らん顔。混戦中のレースでは卓越したドライビングテクニックが要求される。オウグストはなんとかブリータをいい位置で泳がせようと必死に指示をだしている。だが動く気配無し。怒ったオウグストはドライバー方を振り返り
  「何してるんだ!聞こえてるか爺さん!右だァ!」
と飛び跳ねながら絶叫した。その絶叫に気が付いたドライバーは
  「はぁ?何ていったダ?オラの左耳は何にも聞こえないダぁ~。右耳だけちょこっと聞こえるダ。補聴器入ってるからよ。もしもぉ~言いたいことがあったらよぉ、こいつに言え。こいつが怒鳴ったらオラにも分かるからよぉ~」

とんでもないドライバーの登場である。
彼が交代ドライバーと勘違いした兄ちゃんはボートの運転は全く出来ない。耳の遠いドライバー専用の絶叫係だった。オウグストはドライバーを即座に交代させたかったがこのレースではエスコートボートの数が足りず、バックアップボートがなかったために、この体制のまま彼はレースを進めるしかなかった。
  「兄ちゃん右だ」
  「爺さんコーチが右っていってるぞ!」
  「はぁ?なんだって?右にいぐのか?左でなぐていいんだな?そんじゃ右いぐか」
時間がかかってしょうがない。

レース開始1時間後、突然土砂降りになった。スコール並の土砂降りである。舟の上には隠れる場所が無い。オウグストはすかさずレインポンチョを着込んだ。さすがに長年コーチをしているだけに用意がいい。だが他の2人は極めて用意が悪かった。雨具など何も持ってきていない。ずぶ濡れだ。レース中に雨が降るなんて想像もしていなかったのだろう。

しばらくして

「あらぁ弱ったもんだぁ。補聴器によぉ、雨が入っちまったダ。もうオラには何んも聞こえねぇダァ。もうこんなものいらねえ・・」
  ドライバーは補聴器をぽいと川に投げ捨てた。もう絶叫も咆吼も聞こえない。

穏やかな日常の沈黙が訪れた瞬間にレースのことなど忘れてしまったドライバーはあらぬ方向を見つめ、川下りを楽しむ翁のごとくのんびり優雅に船旅を楽しみ始めた。
  「オラこの雨んなか、なにしてるダァ?」
困ったのはオウグストだ。優勝争いに絡む選手なのにぐずぐずしていたら後続の選手に抜かれるかもしれない。

彼は兄ちゃんに
  「おい、爺さんに右にいけって怒鳴れ」
といったが、肝心の兄ちゃんは極度の船酔いで船縁から顔を出したまま数分前からぴくりとも動かなくなっていた。この状態で絶叫は無理だ。息をするのだって辛かろう。もうどうにもならない。オウグストは殆どパニック状態である。
  「じいさん。俺が運転する!!!」
と絶叫したが、きっぱりと一言
「これはオラの舟だぁ~!オラのじいさんの代からの舟だぁ~!誰にもさわらせねぇぞぉ~!!」

以降泳いでいるブリータは身振り手振りで絶叫するオウグストと、船縁で全く使い物にならなくなりぐったりしている役立たず絶叫兄ちゃんと、風流・優雅を楽しむドライバーお爺さんの動向を逐一観察しながらレースをする羽目になった。

 選手からのお願いである。ドライバーは慎重に選んで欲しい。


 
 
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